名古屋地方裁判所 平成9年(ワ)3568号 判決 1999年4月23日
原告 X
右訴訟代理人弁護士 A
同 角田雅彦
被告 株式会社メイテック
右代表者代表取締役 B
右訴訟代理人弁護士 堤淳一
同 堀龍之
同 石田茂
同 石黒保雄
同 山根尚浩
同 林光佑
右訴訟復代理人弁護士 永谷和之
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一1(主位的請求)被告の平成九年六月二七日の第二四回定時株主総会における別紙本件株主総会決議事項記載の決議を取消す。
2(予備的請求)被告の平成九年六月二七日の第二四回定時株主総会における別紙本件株主総会決議事項記載の決議が存在しないことを確認する。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
第二事実関係
一 請求原因
1 当事者
(一) 被告は、機械類及び電気・電子機器類の設計、製作及び販売並びに電子計算機に関するソフトウエアの開発及び販売等を目的とし、平成九年六月二七日当時の資本の額が五億円以上、議決権を有する株主の数が千人以上である株式会社である。
(二) 原告は、被告の株主であり、昭和五五年五月一二日、被告の代表取締役に就任し、その後、重任され、平成七年六月二九日にも重任された者である。
2 本件株主総会決議
被告は、平成九年六月二七日、第二四回定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)において、別紙本件株主総会決議事項記載の決議(以下「本件株主総会決議」という。)をした。
3 本件株主総会決議の瑕疵
しかし、本件株主総会の招集の手続及び決議の方法には、次のとおり瑕疵があるから、本件株主総会決議は取り消されるべきであり、仮にそうでなくても法律上存在したとは評価できない。
(一) 招集権のない者による招集
(1) 被告は、平成八年七月三一日の取締役会(以下「本件取締役会」という。)において、原告を被告代表取締役から解任する旨の決議をした上、別紙本件取締役会決議事項(以下「本件取締役会決議事項」という。)第二項のとおり、Bを被告代表取締役社長に選任する旨の決議(以下「本件取締役会決議」という。)をし、本件株主総会は同人により招集された。
(2) しかし、本件取締役会決議は次の理由から無効であるから、本件株主総会は招集権のない者により招集されたものである。
① 定款及び取締役会規程違反
被告定款二〇条二項は、取締役会に関する事項については取締役会で定める取締役会規程による旨を定めており、被告取締役会規程八条二項は、取締役会の招集通知は書面でなすべきこと、同通知には会議の目的事項を記載すべきことをそれぞれ規定しているところ、本件取締役会招集通知には、審議事項としては「平成八年八月一日付人事異動の件」及び「海外出張に関する稟議関連規程改訂の件」との記載しかなかった上、本件取締役会には、取締役全員が出席したものの、出席した取締役全員が通知にない議題を審議採決することに同意したわけではなかったから、本件取締役会招集通知に審議事項として記載のないBを被告代表取締役社長に選任する旨の本件取締役会決議は、右定款等の定めに違反し無効である。
② 著しい不公正
右①の事実のほか、本件取締役会は、次に述べる経過で議事が進行されたから、およそ会議の態をなさない、取締役C、取締役D及び原告を除くその余の取締役ら一〇名(以下「他取締役ら」という。)の陰謀による著しく不公正な一種のクー・デタに他ならず、法がその効果を許容し得る範囲のものではない。
イ 本件取締役会において、被告取締役Eは、本件取締役会決議事項第一項のとおり、原告を被告代表取締役社長の職務から解任する旨の決議をなすべき議案を「緊急動議」として提出した。
ロ 右Eは、右議案の採決に当たり、原告は特別利害関係人に該当し議長としての適格性を欠くので、右議案の審議及び採決のため被告取締役Bを議長として推薦すると述べ、同人を議長に選出する議を諮ったところ、取締役C、取締役D及び原告を除く、他の取締役らが、即時これに賛意を表し、Bが議長に就任して、爾後、議長をつとめた。
ハ Bは、議長として、右議案の審議を諮ったが、同議案提出理由については、Bその他の取締役らから何の説明もなく、議場における何の審議もなく、原告に対し弁明の機会も与えないまま、原告を特別利害関係人であるとして、その議案について原告が議決権を行使することを拒否し、かつ、原告を議決権の基礎となる「出席取締役」の数から排除した上、間髪を容れず、他取締役ら全員が賛同したため、C及びDの反対の意思表明にもかかわらず、右議案は可決された。
ニ その後、他取締役らは、本件取締役会決議事項第二項以下のすべての決議に賛同したので、Bは、これらの決議がすべて可決承認されたものとした。
ホ また、本件招集通知記載の各審議事項は、「取締役会の審議事項に該当する人事異動が存しなかった。」又は「取締役会の審議事項ではないことが判明した。」という理由をもって審議されないまま、本件取締役会は終了した。
(二) 議長としての適格性を欠く者が議長として議事を行ったこと
被告定款第一二条は、株主総会の議長を取締役社長と定めているところ、右(一)のとおりBは被告の代表取締役社長ではなかったのに、本件株主総会において議長として議事を進行させ、その結果本件株主総会の決議がなされたから、本件株主総会の決議は瑕疵のある議事進行及び決議方法によってなされたものである。
(三) 取締役選任に関する決議方法の瑕疵
(1) 本件株主総会においては、左記会社提案第二号議案が提案され、これに対し、原告は、左記株主提案第七、第八号議案をそれぞれ提案した。
記
イ 会社提案第二号議案
名称 「取締役一一名選任の件」
内容 本件株主総会決議事項第二項と同内容
ロ 株主提案第七号議案
名称 「取締役選任の件」
内容 選任すべき取締役の数を会社提案第二号議案の取締役候補者と同数の一一名とし、右会社提案候補者ら一一名のほかにX、C、Dの三名を候補者として取締役を選任すること
ハ 株主提案第八号議案
名称 「選任すべき取締役の数を増加して取締役を選任する件」
内容 第七号議案において取締役に選任されなかった候補者があれば、当該選任されなかった候補者の数だけ候補者を増員した上、当該選任されなかった候補者を取締役に選任すること
(2) 一般に、株主総会において、複数の取締役を選任する議案はその数に相当する個数の議案、すなわち取締役一名を選任する議案が選任すべき人数分だけ存するのであるから一つのポストについて各別に一名ずつを出席株主数の過半数で決定していくことになる。取締役選任についての提案に対しては、参考書類に記載された候補者の選任の可否は議題内容とならず、他の者をも選任することができ、さらに、被告は定款において累積投票請求権を完全に排除する旨を定めているから、被告の場合には、複数の取締役を選任する場合でも、その議題は人数の限定のない(定款上の限定はある)「取締役選任の件」であり、選任される取締役の員数も議題内容とならず、各取締役候補者の一人一人に対する株主の議決権行使が一議案に対する採決となり、これを人数分だけくり返す必要がある。
したがって、会社提案第二号議案と株主提案第七、第八号議案とは、「取締役選任の件」という同一の議題である。
(3) しかし、本件株主総会においては、株主提案第七号議案を会社提案第二号議案の修正案として取扱う旨の決議(本件株主総会決議事項一(一))、株主提案第八号議案を会社提案第二号議案の追加選任議案として取扱う旨の決議(同三(一))がそれぞれなされ、これらに基づき、株主提案第七号議案、会社提案第二号議案、株主提案第八号議案の順に採決するとの方法により、右三案はそれぞれ順に否決(同一(二))、可決(同二)、否決(同三(二))された。
したがって、本件株主総会の決議方法には、取締役選任に関する決議の方法を誤った瑕疵がある。
(四) 動議等の採決方法の瑕疵
(1)イ 前記(三)(3)の議事進行はB議長が提案したものであるが、右提案に対し、A株主は、第七号提案と第二号提案を一括上程し、また、一四名の候補者を順次各別にその選任の賛否を取るべきである旨の動議を提出した。これに対し、B議長は、右議長提案の議事進行について、拍手を求める方法で過半数の賛成があったものとして右動議を否決した。
ロ 議案採決の方法についての動議につき、その決議に参画しうるのは本人出席の株主数一五二名、株式数一〇二四万〇九〇〇株及び委任状出席の株主一名、株式数三二一万三四〇〇株分合計一三四五万四三〇〇株である。第七号議案の当日入場賛成株式数が四六五万五九〇〇株の多数にのぼる状況を考えると拍手という曖昧な方法で「異議なし」を賛成多数とすることについてはその議決の方法に誤りがある。
いわゆる議事進行に関する動議について議決権行使書面の記載で対処することはできない。仮に委任状出席の株主一名(三二一万三四〇〇株)が「拍手」あるいは「異議なし」と唱和していないと認定されれば、その決議は反対の結果になるものである。それを確認せず、議事を進行したことは違法である。
(2) また、株主提案第七、第八号議案の採決に当たっては、賛成株主の起立と氏名発表を求め、社員株主多数の異様な雰囲気の中での本件株主総会において、賛成の意思表示をなすことを困難にする違法な採決方法を採用した。これに反し、会社提案第二号議案等の採決に当たっては、賛成株主の口々にする「賛成」との声高な発言と、数の多寡も決めかねる拍手のみによって議案が可決された旨をB議長が宣言し、賛成株主の起立はおろか、氏名公表も避けたばかりか賛成株主数も明らかにせず、反対者の起立なども求めなかった。
右議決方法は株主提案に賛成する株主の議決権行使を妨げる違法な採決方法である。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)、(二)の各事実は認める。
2 同2の事実のうち、別紙本件株主総会決議事項第一項記載の決議がなされたことは否認し、その余は認める。別紙本件株主総会決議事項第一項記載の株主提案議案は、「選任すべき取締役の数は、会社提案候補者の数に等しいものとし、会社提案候補者らのほかに次の三名(X、C、D)を候補者として取締役を選任すること」であって一四名の候補者のうちから一一名の取締役を選任する旨の提案ではない。
3(一) 同3(一)(1)の事実は認める。
同(2)①の事実中、本件取締役会招集通知に審議事項として記載のないBを被告代表取締役社長に選任する旨の本件取締役会決議が右定款等の定めに違反し無効であることは争うが、その余の事実は認める。取締役会招集通知に予め代表取締役解任及び選任を議題として記載し、これを各取締役に周知させておく必要はない。議題を特定して通知することを取締役会招集の要件とすることを取締役会規則で定めた場合でも、取締役会の議事運営は予め通知された議題に拘束されるものではない。
同(2)②の事実中、本件取締役会決議が著しく不公正であるとの主張は争う。同イ、ロの各事実は認める。同ハの事実中、本件取締役会決議事項第一項の議案の審議が行われ、特別利害関係人として、原告が出席取締役数に算入されなかったこと、右議案が他取締役らによって承認可決されたことはいずれも認め、その余は否認する。解任決議の提案理由は、Eが本件取締役会において明確に述べたところである。同ニの事実は認める。同ホの事実中、本件招集通知記載の各審議事項を審議せずに本件取締役会が終了したことは認め、その余は否認する。必要がなければ審議しないのは当然のことである。
(二) 同3(二)の事実中、被告定款第一二条が、株主総会の議長を取締役社長と定めていること、本件株主総会決議がBにおいて議長として議事を進行し決議したものであることは認め、その余の主張は争う。
(三) 同3(三)の事実中、(1)及び(3)の各事実はいずれも認め、(2)の主張及び本件株主総会の取締役選任に関する決議方法に誤りがあったとの主張は争う。
(四)(1) 同(四)(1)の事実中、イの事実は認め、ロの主張は争う。
(2) 同(2)の事実中、B議長が、株主提案第七、第八号議案の採決に当たっては賛成株主の起立と氏名発表を求めて賛成議決権数が過半数に満たないことを確認し、会社提案第二号議案等の採決に当たっては、賛成又は反対株主の起立、氏名公表は求めず、拍手を求める方法で賛成議決権数が過半数であることを確認し、賛成株主数を明らかにしなかった事実は認め、その余の事実及び主張は争う。
第三当裁判所の判断
一 被告が機械類及び電気・電子機器類の設計、製作及び販売並びに電子計算機に関するソフトウエアの開発及び販売等を目的とする株式会社であること、原告が被告の株主であり、昭和五五年五月一二日被告の代表取締役に就任し、その後重任され、平成七年六月二九日にも重任された者であることは、当事者間に争いがない。
二1 本件株主総会において本件株主総会決議事項第二項ないし第八項の各決議がなされたことは、当事者間に争いがない。
2 乙第一ないし第四号証によれば、本件株主総会において、選任すべき取締役の数は会社提案第二号議案の候補者の数と同数(一一名)とし、会社提案候補者らのほかにX、C、Dの三名を候補者として取締役を選任すること、ただし、当該議案は、右の三名が会社提案候補者とされないことを条件とするものであり、同人らのうちいずれかが会社提案候補者とされている場合は、会社提案の候補者とされていない者についてのみ当該議案を提出することを内容とする株主提案議案(会社提案第二号議案の候補者には、右三名は含まれていなかったため、右株主提案議案が株主提案第七号議案となった。)が提出され、同議案を会社提案第二号議案の修正案として取扱う旨の決議がなされた上、同修正案を否決する旨(本件株主総会決議事項第一項)の決議がなされたことが認められる。
三 原告は、本件株主総会決議には取消事由又は不存在事由がある旨主張するところ、まず、招集権者によらない本件株主総会の招集及び議長としての適格性を欠く者による本件株主総会の議事進行の主張について検討する。
1 本件取締役会において、原告を被告代表取締役社長から解任し、Bを被告代表取締役社長に選任する旨の決議がなされたこと、本件株主総会が同人により招集され、同人が議長となって議事の進行がなされ、本件株主総会の決議がなされたことは当事者間に争いがない。
原告は、本件取締役決議が、定款及び取締役会規程に違反し、また、著しく不公正な決議であるとして無効である旨主張するので、順次検討する。
(一) 定款及び取締役会規程違反について
(1) 被告定款二〇条二項が、取締役会に関する事項については取締役会で定める取締役会規程による旨、被告取締役会規程八条二項が、取締役会の招集通知は書面でなすべき旨、同通知には会議の目的事項を記載すべき旨をそれぞれ規定していること、本件取締役会招集通知には、審議事項として「平成八年八月一日付人事異動の件」及び「海外出張に関する稟議関連規程改訂の件」と記載されていたこと、及び、本件取締役会において、取締役全員の出席があったが、必ずしも出席した取締役全員が通知にない議題を審議採決することに同意したものではなかったこと、以上の各事実については、当事者間に争いがない。そうすると、原告を被告代表取締役から解任し、Bを被告代表取締役社長に選任する旨の決議は、本件取締役会招集通知には記載のない事項であったということができる。
(2) しかし、株式会社の取締役は、株主総会の決議により株主の信任を受け、会社の業務執行を決定するとともに取締役の職務の執行を監督する必要的機関である取締役会の構成員として、取締役会に出席の上、業務執行に関する会社の意思決定に必要な諸般の事項に関し、臨機応変に経営上の判断をなすべき責務を負い、他方、株主総会に出席する株主と異なり、会議の目的たる事項によって出席するか否かを決する自由を有するわけではなく、常に取締役会に出席して、会社の業務に関するあらゆる提案、動議について必要な討議、議決を行う権限と義務があるから、このような取締役の権限と義務に照らして考えれば、定款等により、取締役会に先立ち会議の目的事項を予め通知すべきことを定めている場合でも、右規定は、取締役会に出席する取締役に事前の準備の便宜を与えたものにとどまり、それ以上に取締役会における決議内容を拘束する効力を有するものではないと解するのが相当である。とりわけ、取締役会における取締役の業務執行に関する監督権の行使は、予め提案された議案とは関係なく、有効適切に監督権を行使することが期待されているものというべきである(代表取締役の解任は、その権限行使の一つである)。
そうしてみれば、取締役招集通知に記載されていない事項が取締役会で審議・議決されたとしても、これによって直ちに当該決議が違法となるものとはいえないだけでなく、本件において、一部の取締役を排除し、反論の機会を与えないこと等濫用的な意図のもとに殊更取締役招集通知に記載しなかった等の事情を認めるに足りる証拠はないから、原告の定款及び取締役会規程違反を理由とする本件取締役会決議無効の主張は採用することができない。
(二) 著しい不公正について
(1) 甲第一号証、第二五号証及び乙第五号証並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、甲第一号証の原告陳述記載部分及び原告本人尋問の結果中、この認定に反する部分はにわかに採用し難く、他に右認定を動かすに足りる証拠はない(この認定事実の一部は、「第二事実関係」欄記載のとおり当事者間に争いがない。)。
① 本件取締役会において、被告取締役Eは、本件取締役会決議事項第一項のとおり、原告を被告代表取締役社長の職務から解任する旨の決議をなすべき議案を「緊急動議」として提出した。
② 右Eは、右議案の採決に当たり、原告は特別利害関係人に該当し議長としての適格性を欠くので、右議案の審議及び採決のため被告取締役Bを議長として推薦すると述べ、同人を議長に選出する議を諮ったところ、他取締役らが即時これに賛意を表し、Bが議長に就任して爾後議長をつとめた。
③ 右Eは、右議案の提案理由について、「現在のX社長の経営方針ならびに新規事業への投資の考え方では、社業の発展どころか早晩経営の危機を迎えかねないと判断しております。代表取締役社長として不適任であると存じますので、解任の動議を提出する次第でございます。」旨を述べた。そして、右議案は、原告を特別利害関係人として議決権者から除外した上、他取締役ら全員の賛成により可決された。
④ その後、他取締役らは、本件取締役会決議事項第二項ないし第四項の決議全部に賛成して、右決議事項が可決承認され、さらにその後も、休憩をはさんで取締役会が続行され、本件取締役招集通知記載の報告事項についての報告がなされるなどしたが、その会議中、B議長が出席者に対し質問の有無を確認したところ、本件取締役決議事項について、質疑を求めたり、異議を述べたりする者はいなかった。
(2) 他方、本件取締役会において、出席した取締役らに対し、殊更に意見表明の機会を奪った等の不当な措置があったことを認めるに足りる的確な証拠はなく(これらの点に関する甲第一号証の原告陳述部分及び原告本人尋問の結果は採用することができない。)、以上の事情によれば、本件取締役会が会議の態をなさない不公正なものであったとはいえず、これをもって、本件取締役会決議に無効原因としての瑕疵があるものということはできない。
2 よって、Bを被告の代表取締役社長に選任した本件取締役会決議が無効であるということはできないから、本件株主総会が招集権のない者により招集されたとか、議長としての適格性を欠く者が議長となって議事進行を行ったものということはできない。
四 取締役選任に関する決議方法の瑕疵について
1 本件株主総会において、取締役選任に関し、会社提案第二号議案が提案され、これに対し原告から株主提案第七、第八号議案がそれぞれ提案されたこと、株主提案第七号議案を会社提案第二号議案の修正案として取扱う旨の決議、株主提案第八号議案を会社提案第二号議案の追加選任議案として取扱う旨の決議がそれぞれなされ、これらに基づき、株主提案第七号議案、会社提案第二号議案、株主提案第八号議案の順に採決されて、右三案がそれぞれ順次否決、可決、否決されたことは、いずれも当事者間に争いがない。
2 原告は、会社提案第二号議案と株主提案第七号議案は、いずれも取締役一一名の選任の件という同一議題であり、株主提案第七号議案を会社提案第二号議案の修正案として取扱うことは誤りであって、会社提案にかかる候補者一一名と株主提案にかかる候補者三名について、各別に順次その選任に関する賛否を採るべきであったと主張するので、検討する。
確かに、累積投票による場合を別として、複数の取締役を選任する議案については、各株主の意思を正確に反映させる点からいえば、原告の主張するように候補者ごとに取締役としての選任の賛否を採ることが適当な方法であるとはいえる。
しかし、前示のように後で会社提案第二号議案の採決をとることを前提にその修正案として位置づけらた株主提案第七号議案が否決されたということは、同案のみの候補者であるX、C、Dを候補者とすることについて過半数の支持が得られなかったということであり、仮にこれらの者らを取締役候補者として一人ずつ選任の採否をとったとしても、いずれも過半数の支持が得られることなく否決される結果になることは明らかであり、また、その後で会社提案第二号議案が可決されたが、これも、仮に同議案の候補者一人ずつ選任の採否をとったとしても、いずれも過半数の支持を得て可決される結果になることが明らかである。右の事情に加えて、取締役選任に関する議案の取扱いについては、議長が出席株主に諮り、賛成の決議を得たことも前示のとおりである。
してみれば、本件のように、当該採決方法によっても各株主の意思が正確に反映されて、各候補者ごとに取締役としての選任の賛否を採った場合と同じ結果になることが明らかであり、かつ、そのような採決方法を採るための議案の取扱いについて会議体としての意思が明確にされ、その総意に基づく場合には、かかる採決方法を採ることも許され、必ずしも取締役一名の選任を所定の員数分繰り返す必要はないものと解するのが相当である。
したがって、本件において株主提案第七号議案を、会社提案第二号議案の修正案として取扱い、これに基づき会社提案第二号議案に先行させて採決したことは、違法なものということはできず、これをもって、本件株主総会決議に取消原因又は不存在事由としての瑕疵があるものということはできない。
3 次に、原告は、株主提案第八号議案を会社提案第二号議案の追加選任議案として取扱ったことは誤りであると主張する。
しかし、株主提案第八号議案の内容は、同第七号議案で提案された取締役候補者が取締役に選任されなかった場合に、当該選任されなかった候補者の数だけ選任されるべき取締役の員数を増やした上、当該選任されなかった候補者を取締役に選任するというのであるから、株主提案第八号議案は、株主提案第七号議案の候補者の当落の確定を待たなければ、審議することが論理的に不可能である。そして、本件において取締役の当落は、株主提案第七号議案の否決、会社提案第二号議案の可決により初めて確定したのであるから、株主提案第八号議案を会社提案第二号議案の追加選任議案として取扱い、これに基づき同案採決の後で採決したことは、違法なものということはできず、これをもって、本件株主総会決議に取消原因又は不存在事由に当たる瑕疵があるということはできない。
五 動議等の採決方法の瑕疵について
1 拍手による採決方法の当否について
(1) 本件株主総会において、B議長が、株主提案第七号議案を会社提案第二号議案の修正案として取扱い、株主提案第八号議案を会社提案第二号議案の追加選任議案として取扱い、株主提案第七号議案、会社提案第二号議案、株主提案第八号議案の順に採決するとの議事進行を提案し、右提案に対し、A株主が、株主提案第七号議案と会社提案第二号議案を一括上程し、また、一四名の候補者を順次各別にその選任の賛否を取るべきである旨の動議を提出したこと、B議長が、右議長提案の議事進行について、拍手を求める方法で過半数の賛成があったものとして右動議を否決したことについては、当事者間に争いがない。
(2) 株主総会における採決の方法については法律上特に規定はないから、出席者の意思を算定するのに適当な方法であれば、拍手による採決方法も直ちに違法とはいえないものというべきところ、乙第一ないし第四号証をみても、右議長提案の議事進行に反対の株主において拍手による議決方法について右議場において直ちにこれに異議を唱え、賛否の数について厳密に数えることを要求する等の行動に出ておらず、右議長提案の議事進行につき過半数の賛成があったことを前提として、その後の議事が進行していることに照らせば、右議長提案について賛成の拍手により出席者の過半数の意思を確認することができたものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
したがって、右における拍手による採決は違法なものとはいえず、これをもって、本件株主総会決議の取消原因又は不存在事由に当たる瑕疵ということはできない。
2 株主提案に賛成する株主の議決権行使を妨害する採決方法の主張について
(一) B議長が、株主提案第七、第八号議案の採決に当たっては賛成株主の起立と氏名発表を求めて賛成議決権数が過半数に満たないことを確認し、会社提案第二号議案等の採決に当たっては、賛成又は反対株主の起立、氏名公表は求めず、拍手を求める方法で賛成議決権数が過半数であることを確認し、賛成株主数を明らかにしなかったことは、当事者間に争いがない。
(二) しかし、乙第一ないし第四号証によれば、右(一)の採決方法のため、株主が自由な意思で表決を行うことを妨げられたり、株主提案にかかる議案について賛成の意思表示をなすことを困難にされたことはなかったこと、本件株主総会が異様な雰囲気の中で行われたものでもなかったことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
したがって、右(一)の採決方法及び本件株主総会の雰囲気等が、株主提案に賛成する株主の議決権行使を妨げるものであったとはいえないから、これをもって、本件株主総会決議に取消原因又は不存在事由に当たる瑕疵があるということはできない。
六 以上のとおり、本件株主総会の招集の手続や決議事項に関する決議方法等に原告の主張するような瑕疵はいずれもこれを認めるに足りないから、原告の本件株主総会決議取消請求及び本件株主総会決議不存在確認請求は、いずれも失当である。
第三結論
よって、原告の本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 髙橋勝男 裁判官 後藤健 高谷英司)
<以下省略>